見積もりは、フリーランスの仕事で一番むずかしい作業だと思っています。
図面を描くことには自信があっても、「この仕事、いくらでやりますか」と聞かれた瞬間に手が止まる。安すぎれば自分が損をして、高すぎれば仕事が来ない。正解が見えないまま数字を出す——独立して最初にぶつかった壁がここでした。
3年やってきて、ようやく自分なりの手順が固まりました。今回は、依頼が来てから見積金額を出すまでの流れを順番に書きます。
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見積もりの前に——聞かないと出せない情報
まず大前提ですが、情報が足りない状態で金額を出してはいけません。「だいたいこのくらいで」と勘で出した見積もりは、後から必ず自分を苦しめます。
依頼が来たら、金額の話より先にこれを確認します。
見積前に確認する項目
- 物件の規模と用途——延床面積、階数、建物種別
- 作図の範囲——どの図面を、どこまで描くのか
- 支給される資料——意匠図・構造図がどこまで揃っているか
- 納期——最終納期と、中間提出の有無
- 修正対応の範囲——何回まで含むのか
- 決まっていない部分——未確定事項がどれだけあるか
特に③と⑥が金額に直結します。支給資料が整っていない案件、未確定が多い案件は、作業量が確実に膨らみます。同じ図面枚数でも、必要な工数がまるで違う。ここを確認せずに枚数だけで見積もると、赤字案件になります。
見積もりの精度は、ヒアリングの精度で決まる。金額を考える前に、聞くべきことを聞く。これが一番大事な工程です。
手順① 作業量を時間に換算する
僕の見積もりは、「この仕事に何時間かかるか」から逆算します。
図面1枚あたりの単価をベースにする方法もありますが、それだけだと難易度の差を吸収できません。同じ1枚でも、複雑な取り合いのある図面と単純な図面では、かかる時間が数倍違うことがあります。
だから僕はまず、図面ごとに想定作業時間を出す。過去の類似案件と照らし合わせて「あの物件のあの図面と同じくらい」と当てていきます。この作業ができるのは、過去案件の記録を残しているからです。
手順② 見えない工数を足す
ここが独立当初に一番失敗したところです。作図以外の時間を見積もりに入れていなかった。
見えている工数
- 作図そのものの時間
忘れがちな工数
- 支給資料の読み込み・整理
- 納まりの検討・調べもの
- 質疑の作成と回答待ち
- 修正対応
- 打ち合わせ・メール対応
- 最終チェック・PDF出力・納品
右側の工数は、案件によっては作図時間と同じくらいのボリュームになります。特に納まりの検討時間は、施工図の品質を左右する本質的な工程なのに、見積もりから抜け落ちやすい。
僕はここを作図時間に対して一定割合を上乗せする形で計上しています。資料が整っていない案件、質疑が多く発生しそうな案件は、その割合を厚くします。
手順③ 時間単価をかける
総工数が出たら、そこに自分の時間単価をかけます。
時間単価は、「年間で必要な売上 ÷ 年間の稼働可能時間」から逆算して決めています。フリーランスは経費も社会保険料も税金も自分で払うので、会社員時代の時給感覚で設定すると必ず足りません。
単価の考え方の詳細は「フリーランス施工図の単価設定」で書いています。
手順④ 納期の条件で調整する
同じ作業量でも、納期の厳しさで金額は変わります。
短納期の案件は、他の仕事を止めたり、夜間・休日を使うことになります。それは自分の時間を余分に売っているということなので、その分は金額に反映させるべきです。逆に、余裕のある納期でスケジュールに組み込みやすい案件は、少し調整の余地があります。
「無理な納期でも同じ金額で受ける」を続けると、自分の時間がいくらでも安く買えることになってしまう。納期は金額に含まれる条件です。
手順⑤ 内訳を書いて提出する
最後に、見積書の書き方です。総額だけの見積書は出しません。
「施工図作成一式 ○○円」だと、相手は高いか安いか判断できず、値引き交渉の余地しか残りません。図面種別ごと、工程ごとに内訳を書くと、何にいくらかかっているかが伝わり、金額の根拠が説明できます。
さらに、見積書には条件も明記します。
- 作図範囲——含むもの・含まないものを書く
- 修正対応の回数——「○回まで含む」と数字で書く
- 前提条件——支給資料が揃っている前提であること
- 有効期限——見積の有効期間
この条件書きが、後の追加請求やトラブルを防ぐ防波堤になります。「範囲外の作業が発生した場合は別途お見積り」と一行入れておくだけで、話が全然変わります。
安く出しすぎないために意識していること
独立当初は「高いと言われたらどうしよう」という不安から、安めに出してしまいがちです。3年やって思うのは、安く受けた案件は、自分も相手も幸せにならないということ。
赤字案件を抱えると、時間に追われて品質が落ちます。品質が落ちれば信頼も落ちる。適正価格で受けて、しっかりした図面を出すほうが、結果的に継続依頼につながります。
もし予算が合わないなら、値引きではなく範囲を調整する。「この金額なら、ここまでの範囲でいかがですか」と提案する。金額を下げるより、条件で折り合いをつけるほうが健全です。
まとめ
- ✓見積もりの精度はヒアリングの精度で決まる——情報不足で金額を出さない
- ✓枚数ではなく「想定作業時間」から逆算する
- ✓納まりの検討・質疑・修正など「見えない工数」を必ず加算する
- ✓納期の厳しさは金額に含まれる条件——短納期は反映させる
- ✓総額だけでなく内訳と条件を書く。予算が合わないなら値引きより範囲調整
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次は「施工図の質疑はどう書くか——現場に伝わる聞き方の工夫」を書く予定です。WORKSカテゴリーをお楽しみに。
単価の考え方は「フリーランス施工図の単価設定」、契約まわりの実務は「フリーランス施工図の請求書・契約書の管理方法」もあわせてどうぞ。



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